エンジン油の基油による分類

エンジンオイルは基油の違いにより

 鉱物油(ミネラル)

 部分合成油(セミシンセティック)

 化学合成油(フルシンセティック)

 植物油

に分類される

■ 鉱物油(ミネラル)

石油を精製する過程で得られるもの。

分子量などは厳密にそろえることができないが、比較的安価に製造でき、一般的にはこれが多用されている。

原油にはナフテン系とパラフィン系があり原産地により異なる。

また、特殊精製工程により高精製ベースオイル,高粘度指数ベースオイル,低流動点ベースオイルなどが精製される。

 ● パラフィン系ベースオイル

  炭素数はC15~C50,分子量は200~700, 常圧換算沸点は250~600℃の範囲にある。

  種類はSUS粘度(Saybolt Universal Second)を用い区別されており,SUS/100Fの粘度で60~700程度の留分はニュートラル油(Neutrals)と呼ばれ,また減圧蒸留残油を脱歴精製したものはブライトストック(Bright Stocks)と呼ばれSUS210F粘度で表される。

パラフィン系ベースオイルの精製工程はパラフィン系炭化水素を多く含む原油の常圧蒸留残油を原料に減圧蒸留、溶剤脱歴処理を行いその後、溶剤精製法または水素化分解法処理を行う。

  特徴としては,粘度指数が高いが一般的に流動点も高くなる。


GRADE

100 Neutral

150 Neutral

500 Neutral

150 Bright Stock
密度(15℃) g/cm3
0.850

0.870

0.887

0.903
色(ASTM)
L0.5

L0.5

L1.0

L3.5
引火点(COC) ℃
212

234

270

316
粘度40℃ mm2/S
20.8

30.7

97.5

469.0
粘度100℃ mm2/S
4.24

5.29

10.90

31.80
粘度指数
108

104

96

96
流動点 ℃
-15.0

-12.5

-12.5

-12.5
硫黄分 mass%
0.03

0.46

0.67

1.09
全酸価 mgKOH/g
0.01

0.01

0.01

0.01


 ● 高精製ベースオイル,高粘度指数ベースオイル,低流動点ベースオイル


GRADE
高精製パラフィンベースオイル 高粘度指数パラフィンベースオイル 低流動点パラフィンベースオイル
-A -B -C -D -E -F -G -H
密度(15℃) g/cm3 0.8627 0.8706 0.8215 0.821 0.8834 0.862 0.872 0.889
色(ASTM) L0.5 L0.5 L0.5 L0.5 L0.5 L0.5 L0.5 L0.5
引火点(COC) ℃ 224 270 230 240 246 174 208 270
粘度40℃ mm2/S 30.69 92.70 19.94 24.47 46.0 11.4 28.3 145
粘度100℃ mm2/S 5.288 10.94 4.488 5.163 7.993 2.79 4.83 13.9
粘度指数 104 102 143 147 146 78 86 90
流動点 ℃ -15.0 -15.0 -17.5 -17.5 -15.0 -52.5 -45.0 -27.5
硫黄分 mass% 0.007 0.008 0.001 0.008 0.01
-

-

-
全酸価 mgKOH/g 0.01 0.01 0.01 0.01 0.01 0.01 0.01 0.01

 ● ナフテン系ベースオイル

  ナフテン系ベースオイルの精製工程は中南米に多いナフテン系原油(中東産)を常圧蒸留,減圧蒸留処理を行いその後おおむね以下の処理を行い精製される。

   硫酸洗浄-白土処理

   溶剤精製

   水素化処理

  特徴としては,粘度指数は低いが低温流動性が優れている。


GRADE

60 Spindle

Machine 56

30 Motor

40 Motor
密度(15℃) g/cm3 0.9072 0.9445 0.9128 0.9583
引火点(COC)℃ 140 186 220 210
粘度40℃ mm2/S 7.814 56.17 120.6 282.2
粘度100℃ mm2/S 2.042 5.747 9.713 13.13
粘度指数 27 -15.2 33 -41.2
流動点 ℃ -50.0 -30.0 -27.5 -15.0
色(ASTM) L0.5 L2.5 L1.0 L3.5
全酸価 mgKOH/g 0.01 0.01 0.12 0.01
硫黄分 mass% 1.46 2.21 0.08 2.32

■ 部分合成油

鉱物油や高度水素分解油にPAOやエステル、あるいは水素化分解油を混合し、品質を高めたもの。

その配合率や基油は日本では規定がなく、表示義務もない。

なお従来、鉱油と合成油をブレンドしたものをグループIII基油に置き換える事もあり、グループIIIベースであっても便宜上は部分合成油や半合成油とするケースもある。

グループIIIを合成油とした場合、グループI/IIにグループIIIをブレンドした場合も部分合成油や半合成とする事も可能であり、本来は部分合成油となるグループIIIとPAOのブレンドは全合成になるため判断は困難。

■ 化学合成油(フルシンセティック)

PAO(ポリアルファオレフィン)は工業的には石油から分留したナフサ、もしくは天然ガスから得たエチレンを合成することでαオレフィンとし、それを重合することで成分や分子量を一定にしたもので、重合度を調整することで幅広い粘度を比較的自由に作れる。

鉱油に比べると低温流動性、せん断安定性などに優れ、鉱油に比べ製造コストは高いものの、その他の合成油よりも低コストであり、大量生産が可能な点、鉱油と同様に無極性の炭化水素であり、鉱油からの置き換えも行いやすいなどという点からエンジンオイルにおいて(グループIII基油を除き)最も多用される化学合成油となっている。

エステルはポリオールエステル、ジエステル、コンプレックスエステルなどがあり、一般的には動植物の脂肪酸とアルコールを化合して生成される。

組み合わせ次第で様々なエステルが存在するため性能や特性は千差万別となる。

エステル結合部分のカルボニル基が極性を持ち、特にその酸素原子にあるδ-(負の極性)は、オイル自身を金属表面に吸着させる効果がある。

しかし極性が高い場合は添加剤の働きを阻害する事もあり、鉱油やPAOに比べコストも高く、寿命も短い傾向のためベースとする事は一般的ではなく、部分的な配合が多い。

極性が低く、耐久性の高いエステルも存在するがエステルの中でも高価な物となるため利用はさらに限られる。

フィッシャー・トロプシュ法によるワックスを原料とする基油。

原油価格高騰のために単価としては石油よりも安価な天然ガス (GTL) から作られる製品も増えてきている。

エステル系とPAO系はともに化学合成油だが、化学的安定性や粘度抵抗などに大きな違いがあり全く別の性質をもつ。

一般的には化学的安定性の非常に高いPAOに粘度抵抗の小さいエステル系を一部混ぜ合わせたものを基油として用いることが多いが、サーキット走行用に100%エステル系を使用したオイルも存在する。

その他化学合成油の基油(ベースオイル)として、アルキルナフタレン、ポリブデンなどがある。

また、アメリカの広告審議会 (NAD) の採決により、高温高圧下で水素、触媒を用いてワックスや石油重質分を分解・異性化精製する、ハイドロクラッキングオイル(高度精製油、高粘度指数油、超精製油、グループIIIベース油とも表記される。

商品目ではVHVI、MCなども化学合成油(シンセティック)として表示される場合が増えているが、厳密には化学合成油ではない。

このため国内においてグループIIIベース、またはPAOにグループIIIをブレンドしたものを化学合成油と表記する事は少なく、全合成油や合成油とする事が多い。グループIIIを合成油とするのであれば、PAOよりも多用されている合成油という事となる。

近年流通している安価な全合成油・合成油は基本的にこのグループIIIベースである。

■ 植物油

ひまし油など。

潤滑性はたいへん優れておりレースに用いられるが、酸化しやすいために現在の一般車ではほとんど用いられない。

オイルメーカー(ブランド)のカストロール(Castrol)は、エンジンオイルの原料としてこのひまし油(Castor Oil)を用いていたことにその名を由来する。

一般ユース向きの製品としてはFUCHS(フックス)が植物油ベースの生分解性オイルを販売している。

フックスは日本では知名度が低いがポルシェカップのサプライヤーをはじめクライスラー BMW VW OPEL ポルシェ等の欧米の自動車メーカーやビルシュタインの新車充填油、承認油(指定油)となっている大手メーカーである(指定油脂が生分解性オイルというわけではない)。

なお上記の分類はあくまで基油におけるものであり、添加剤の溶剤には基本的に鉱油が用いられるため、例えPAOやエステルベースの化学合成油であっても鉱油を全く含まないというケースはエンジンオイルにおいては極めて限られる。

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